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東京高等裁判所 平成11年(ラ)844号 決定 1999年5月17日

抗告人

右代理人弁護士

高山征治郎

亀井美智子

楠啓太郎

相手方

日東興業株式会社

右代表者代表取締役

山持巌

右代理人弁護士

阿部三郎

櫻井公望

高木徹

寺島秀昭

木下秀三

須藤修

関内壮一郎

渕上玲子

山本眞弓

松留克明

太田治夫

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨

1  原決定を取り消す。

2  原決定添付の別紙和議条件による和議を不認可とする。

二  抗告の理由の要旨

抗告の理由の要旨は次のとおりである。

1  ゴルフ会員権の和議債権額

ゴルフ会員権については、預託金返還請求権とゴルフ場施設利用権を含む全体の時価を和議債権額とすべきであり、議決権を行使できる金額も右の金額であるところ、ゴルフ会員権を有する和議債権者(以下「会員債権者」という。)であるIなどが、ゴルフ場施設利用権を含むゴルフ会員権の価格を債権額として届け出たにもかかわらず、届出債権につき議決権を行使できる金額を預託金返還請求権の額のみと算定した違法があり、これを前提に成立した本件和議決議は、法律の規定に違反し、その違法を追完できない。

2  株式会社S銀行の議決権行使額

株式会社S銀行の議決権行使額は、ローン債権の求償権の金額未定分を除くと、五七億六四二七万円余りであるが、同銀行は、その内別除権評価額を五六億円、議決権を行使できる債権額を一億六四二七万円余りとした。ところが、裁判所は、前者を約二六億円、後者を三一億円余りと算定している。このように、同銀行の別除権の価格を不当に低く評価した結果、同社の届出債権につき議決権を行使できる金額を過大に算定した違法があり、これを前提として成立した本件和議決議は、法律の規定に違反し、その違法を追完できない。

3  通常の範囲に属せざる行為についての和議管財人の同意

相手方は、債権者集会で和議に賛成する投票を投じさせる目的で、四回にわたり、会員債権者の一部に対し飲食の接待をして金員を支出したり、平成一一年一月一一日、日東興業全国ゴルフ場会員連絡協議会の会長であったF(以下「F」という。)との間で、会員債権者らがゴルフプレーをするためにのみゴルフ場施設を使用できる旨の目的を限定した賃貸借契約を締結し、相手方の負担でその設定登記手続きをすること、Fを相手方の取締役に就任させることなどを内容とする和解契約を締結したりしたが、これらは、「通常の範囲に属せざる行為」を管財人の同意を得ずに行ったものである。

4  賛成投票委任の撤回

和議債権者J(以下「J」という。)外六四名が和議賛成投票の委任を撤回したのに、同人らの投票が和議反対票として投票結果に反映されていないおそれがある。すなわち、J外六四名は、当初は大屋勇造弁護士(以下「大屋弁護士」という。)に、和議賛成の委任状を送付したが、後に、今井重男弁護士(以下「今井弁護士」という。)らに文書で、大屋弁護士に対する委任を撤回することを委任し、今井弁護士は大屋弁護士にその旨通知した。

また、会員債権者であるK(以下「K」という。)外一九名は、当初は堂野達也弁護士(以下「堂野弁護士」という。)らに、和議賛成投票の委任状を送付したが、債権者集会の当日、その開催前に、同弁護士の事務所にファックスでその委任を撤回する旨の通知をした。

5  債権届出についての誤導

裁判所は、債権額欄には、預託金返還請求権のみが和議債権に当たることを前提とする金額が不動文字で記載され、債権の内容欄には、入会保証金(預託金)と不動文字で記載された債権届出書を使用したことで、会員債権者が、預託金額のみで債権届出をするよう誤導した。

6  贈賄

相手方は、3に記載のとおり、四回にわたり、会員債権者らに酒食の饗応をし、Fに相手方の取締役の地位の提供を約束するなど、贈賄により本件和議賛成票を獲得したもので、本件和議決議は、不正の方法により成立したものである。

7  不正な合意書の締結

相手方は、「和議条件に賛成するための条件等に関する合意書」を締結したが、右合意書は、Fに相手方の取締役の地位を約束する贈賄罪に該当する違法行為であり、公序良俗に違反する無効な契約であり、和議法三二条一項但書に違反し、和議債権者が否認できる契約であることを秘して、和議債権者をして、合意書の内容が守られる旨誤信させて、本件和議に賛成の投票をさせたのであるから、本件和議決議は、不正の方法により成立したものである。

8  P監査法人の調査

和議申立てまで相手方及び関連会社の会計監査を担当していたP監査法人が、和議整理委員を補佐して和議債権の弁済の可否等の調査を担当したが、同法人は、これまで多額の報酬を受領し、相手方とは人的なつながりがあり、また粉飾決算に関与していた疑いもあり、公正な監査は望めなかった。

9  和議条件の履行不可能

本件和議条件の履行ができないので、本件和議決議は和議債権者の一般利益に反する。すなわち、入場者数の減少により、利益計画記載の弁済可能額を達成することは不可能だし、サービスの質の低下により、売上減少は避けられず、今後別除権者との間の弁済協定により、別除権の価額が当初計画より高額に設定され、和議債権の弁済原資に不足を生じるおそれがある。

以上、1から4は和議法五一条一号に、5から8は同条三号に、9は同条四号にそれぞれ該当する行為である。

三  当裁判所の判断

当裁判所も、本件において、和議法所定の和議不認可事由は存在せず、和議を認可した原決定は相当であると判断するが、その理由は、次のとおりである。

1  ゴルフ会員権の和議債権額について

本件和議手続において、会員債権者の届出債権につき議決権を行使できる金額を預託金返還請求権の額としたことに違法は認められない。抗告人は、預託金返還請求権とゴルフ場施設利用権を含むゴルフ会員権全体の時価を和議債権額とすべきであり、議決権を行使できる金額も右の金額である旨主張するが、仮に、ゴルフ会員権全体の市場価格が和議債権額に当たると仮定すると、和議開始時のその価格を定めることを要するところ(和議法四五条、破産法二二条)、右価格は、債務者の提供した和議条件、履行の可能性、和議手続の見通しなどとも密接に関連し、これを和議手続において適正迅速に算定することは、著しく困難であるばかりでなく、本件記録によっても、Iらのゴルフ会員権の和議開始時の右価格が預託金返還請求権の額を超えるものとは、認めるに足りず、この点からも、抗告人の右主張は、失当である。

2  株式会社S銀行の議決権行使額について

本件記録によれば、株式会社S銀行の届出債権につき議決権を行使できる金額として定めた額にも違法は認められず、しかも、同銀行は、債権者集会において、和議に同意したとは認められないのであるから、仮に抗告人主張のように同銀行の議決権行使額を過大に算定したとしても、その結果、法定の同意がないのに和議の可決があったことにならないことが、明らかである。

3  通常の範囲に属せざる行為についての和議管財人の同意及び贈賄について

本件記録によれば、相手方は、会員債権者からの要求があったため、平成一〇年一一月及び一二月に、四回にわたり、相手方の状況及び和議に関する説明会をホテル等で開いたが、その際、会員債権者の出席の便宜を考慮して時間を夕方に設定し、出席予定者一人当たり三〇〇〇円余りの予算で飲食物を提供したことが認められるが、これらは、その目的、費用などからみて、「通常の範囲に属せざる行為」とはいえず、また、贈賄といえないことも明らかである。

また、本件記録によれば、相手方は「緑野カントリークラブを守る会」の会長F(日東興業グループ全国ゴルフ場会員連絡協議会会長も兼務)と、抗告人主張のような合意をしたとして、整理委員及び和議管財人の同意を得た上、平成一〇年一二月に裁判所に許可申請をしたが、問題点があったため、右合意は破棄されたことが認められる(その後、右賃貸借契約に関する部分は、「相手方らは、Fに対し、ゴルフ場を将来にわたり売却しないことを確約するとともに、会員にゴルフ場が売却され、プレーができなくなるのではないかとの不安を抱かせないために、会員のプレー権が第三者に対抗できる措置を講ずるために最大限の努力をすることを約し、Fはこれを了承した。」旨の抽象的な合意に改められた。)。

更に、相手方がFを相手方の取締役にすることを約束した事実を認めるに足る証拠はない。

4  賛成投票委任の撤回について

本件記録によれば、J外六四名の会員債権者は、当初、大屋弁護士に和議賛成の議決票及び委任状を送付していたが、平成一一年一月二五日頃、今井弁護士から、大屋弁護士に対し、Jらが右委任を撤回した旨の通知がされたため、大屋弁護士は、相手方の社員を通じて、Jらに直接その意思を確認したところ、同人らは、いずれも和議に賛成であり、同弁護士にその議決権を代理行使して欲しい旨述べたこと、K外一九名の会員債権者は、当初は堂野弁護士に和議賛成の議決票及び委任状を交付し、平成一一年二月三日、午後二時に開催される債権者集会で賛成の議決権を代理行使するよう委任したこと、同日、同弁護士が自分の事務所から会場に出かけた後である午後一時一〇分頃及び二時過ぎ頃、高山征治郎弁護士(以下「高山弁護士」という。)は、堂野弁護士の事務所に宛てて、Kらが右委任を撤回した旨の書面及び同人らがその撤回の意思表示をすることを高山弁護士に委任する旨記載された委任状をファックスで送付したことが認められる。

K外一九名の会員債権者については、堂野弁護士に対する委任の撤回の意思表示は、到達したものと見ざるを得ないが、同弁護士は、債権者集会に出席するため、既に事務所を出ていたので、右ファックス送付を知らず、勿論、Kらが真実、同弁護士に対する委任を撤回したか、その撤回の意思表示を高山弁護士らに委任したかについて調査、確認する機会もなかった以上、定時に開催される債権者集会において議決権を代理行使するという右委任の趣旨に照らし、右撤回の意思表示は効力がないといわざるを得ない(仮に有効としても、和議決議の結果には影響がない。)。

そうすると、J外六四名及びK外一九名の会員債権者につき各委任を受けた弁護士が賛成の議決権を代理行使したことは適法である。

5  債権届出についての誤導について

本件和議手続において、会員債権者の届出債権額につき議決権を行使できる金額を預託金返還請求権の額としたことに違法は認められないことは、前記のとおりであるので、抗告人の債権届出の誤導の主張は、前提を欠く。

6  贈賄及び不正な合意書の締結について

本件において、飲食物の提供は贈賄とはいえず、Fに相手方の取締役への就任を約束して和議への賛成を勧誘した事実はなかったことは前記3認定のとおりである。

7  P監査法人の調査について

和議申立前に和議申立人の会計監査を担当していた監査法人が、整理委員を補助して和議開始原因の存否や和議債権の弁済の可能性について調査を担当することを禁止する法の規定はなく、本件記録によっても、本件和議手続において、整理委員を補助して和議開始原因の存否や和議債権の弁済の可能性について調査を担当したP監査法人の調査結果が、公正を欠いたものであるとは認められない。

8  和議条件の履行不可能について

和議条件の履行ができないなど本件和議決議が和議債権者の一般利益に反するとは、認めがたいことは、原決定理由欄二3(4)のとおりである(和議条件が履行できるか否かは、相手方の人的物的資源、信用度、会員債権者及び担保権者らの意向、社会経済情勢等の全ての事情に関連することであり、別除権者の債権が予想より多くなったからといって、直ちに履行が不可能となるものではない。)。

その外原決定には、違法な点はない。

四  よって、原決定は相当で、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 谷澤忠弘 裁判官 一宮和夫 大竹たかし)

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